記録零落とプロクテル
■ 概要かつて、この世界には「記録」がすべてを統御していた時代があった。 記録とは、出来事ではない。 記録とは、出来事が「意味を持つ」と定義される瞬間そのものである。世界の秩序、感情、対話、歴史、味覚、約束、文化── それらすべては、「記録されていること」によって存在を保っていた。だがある日、記録が零れ落ちた。それは一冊の文書が破られたような話ではない。 もっと広範囲で、もっと構造的な崩壊だった。その出来事を、我々は“記録零落(Recordfall)”と呼ぶ。
■ 発生地点と形跡記録零落の発生地点は現在、「メモリア・クレーター」と呼ばれている。 かつての永島県に該当する地帯であり、R.F.R.計画においては全断片の起点とされる場所だ。零落によって、時間と因果は歪み、 記憶は定着せず、 言葉は意味を失い、酒はただの液体に戻った。いや、正確には―― 戻った“ように見せかけられた”。
■ フラグメントの発生記録が砕けたその瞬間、 それまで世界を保っていた「記憶の構文」は飛び散り、 ジャパン列島全域へとばらまかれた。それらは断片となり、 土地に根付き、 時に人に取り憑き、 やがて形を持って現れ始める。その形こそがR.F.Rプロクテルである。液体の中に潜む、かつての記憶。 正確には、“記憶が記録であったころの残響”。
■ MisologyとX102記録零落後、何者かが封印された記録=X102を回収しはじめた。 彼らは「記録」という概念そのものを否定し、 記憶の構築を“遊び”や“実験”に変えることを試みた。それがMisology(記録否定派)である。X102は本来、過去世界における「人類の記憶を固定するための構文集合」だった。 その調合法は極めて正確で、均衡していた。だがそれをMisologyが悪用し、 記憶のねじれ、人格の撹乱、精神の再編を行っているという報告がある。
■ MJ:かつて大西共和国軍に関与していた記録がある。 その出自は不明だが、白龍が担うR.F.R.計画の再起動に関与した人物である。 記録を修復しているのか、それとも再構成して“別の意味”に書き換えているのかは定かではない。零落溶解師から指示を受け、断片の観測と調合法の再現を続けている。 おれ自身、零落社会については1%も理解も把握もできちゃいない。ただ、「誰もが世界がバラバラだと感じていること」だけは確かだ。
■ 記録零落とは何だったのか?記録零落は終わっていない。むしろ、まだ続いている。人々が過去を正確に語れなくなり、 感情が曖昧になり、 味が“どこか懐かしい”とだけしか言えなくなったとき、 その裏には、断片化された記録が静かに作用している。そして今日もまた、 どこかの街で、 何かのプロクテルが、 誰かの「本来の記憶」に火をつけているかもしれない。── ミツルギ